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  • 実刑判決
    四角い小さな窓から、薄ら光が射し込む。
    コンクリートの壁に囲まれた薄暗い部屋の中に、うずくまったままの僕がいる。
    朝から夕方にかけて就労し、同じ灰色の服を着た大勢の人間の中で食事を済ませては、また、ここに戻ってくる。
    そんな毎日の繰り返しの中で、僕はただ呆然と日々を送っていた。
    強盗傷害罪。
    それが、僕の罪状だった。
    酔った勢いのつまらない喧嘩の末、僕は相手をナイフで刺した。
    そして、倒れた相手の背広の内ポケットからはみ出した財布を見つけ、それを抜き取って逃走した。
    相手を刺したからと言って、動揺したわけではない。
    金に気を奪われただけだ。
    それも、いつものことのように。
    しかし、あちこち逃げ回たものの、指名手配され、僕はすぐにも逮捕された。
    最初は単なる喧嘩で、金を奪ったのは出来心だったという、僕の主張はあっさり退けられた。
    相手が通りがかりの見知らぬ人だったため、金目当ての強盗傷害罪で実刑3年が確定した。
    幸いっと言っていいか、相手は重傷を負ったものの、命を取り留めた。
    でなければ僕は、一生この刑務所で暮らすことになっていただろう。
    後悔の念はない。
    相手も相当酒を飲んでいた様子だったから、その点ではお互い様だし、先に殴りかかってきたのは、あっちの方だ。
    盗んだ財布だって、中身は一万円札が2枚入ったきりだった。
    たっだの2万円…僕は苦笑した。
    バカバカしくて、笑いがこみあげてくる。
    しかし、そんな感情もすぐに消え、元の呆然とした自分に戻る。
    ふと考える、むしろ終身刑か、死刑にでもなった方がマシだったのではないか。
    どうせ俺なんか、諦めの気持ちの方が強かった。
    そうやって、ずっと生きてきたから。
    ふと、ボロ机の上に束になって重ねてある手紙を見る。
    兄からの手紙だ。
    手紙は一週間に一度の割合で、頻繁に送られてきた。
    面会を拒絶したせいだろう。
    僕は、兄にあうつもりがない。
    だから、僕たち兄弟の繋がりは、その手紙だけに託されていたとも言える。
    最初の頃は、中身を読んでいたが、そのうち、封を切ることも面倒くさくなって、ほうったままにしていた。
    「元気にしてるか。」
    「出所まで頑張るよ!」
    「体を大切にな!」
    いつも同じことばかり書かれていて、しまいには、読む気さえなくなった。
    それに、この半年、兄からの手紙は、ぷっつりと止んている。
    返事を一度も出していないせいかもしれない。
    どうせ向こうも、厭きれていることだろうと思い、気にも留めなかった。
    収監されて、そろそろ3年になる。
    出所の日が近づいていた。
    どうせ世間に戻っても、ろくなことはないから、別段その日を心待ちにしているわけではない。
    ただ、間違いになく迎えに来るであろう兄だけには、会いたくなかった。
    こんな惨めな姿を、見られたくない。。
    それが、最後に残された、僕のプライドだったからだ。

  • [00:01.52]実刑判決
    [00:02.68]四角い小さな窓から、薄ら光が射し込む。
    [00:07.22]コンクリートの壁に囲まれた薄暗い部屋の中に、うずくまったままの僕がいる。
    [00:16.44]朝から夕方にかけて就労し、同じ灰色の服を着た大勢の人間の中で食事を済ませては、また、ここに戻ってくる。
    [00:30.93]そんな毎日の繰り返しの中で、僕はただ呆然と日々を送っていた。
    [00:40.17]強盗傷害罪。
    [00:44.52]それが、僕の罪状だった。
    [00:50.88]酔った勢いのつまらない喧嘩の末、僕は相手をナイフで刺した。
    [01:00.76]そして、倒れた相手の背広の内ポケットからはみ出した財布を見つけ、それを抜き取って逃走した。
    [01:10.74]相手を刺したからと言って、動揺したわけではない。
    [01:15.51]金に気を奪われただけだ。
    [01:18.78]それも、いつものことのように。
    [01:22.53]しかし、あちこち逃げ回たものの、指名手配され、僕はすぐにも逮捕された。
    [01:31.72]最初は単なる喧嘩で、金を奪ったのは出来心だったという、僕の主張はあっさり退けられた。
    [01:44.52]相手が通りがかりの見知らぬ人だったため、金目当ての強盗傷害罪で実刑3年が確定した。
    [01:55.89]幸いっと言っていいか、相手は重傷を負ったものの、命を取り留めた。
    [02:05.25]でなければ僕は、一生この刑務所で暮らすことになっていただろう。
    [02:11.64]後悔の念はない。
    [02:15.67]相手も相当酒を飲んでいた様子だったから、その点ではお互い様だし、先に殴りかかってきたのは、あっちの方だ。
    [02:27.29]盗んだ財布だって、中身は一万円札が2枚入ったきりだった。
    [02:34.76]たっだの2万円…僕は苦笑した。
    [02:42.52]バカバカしくて、笑いがこみあげてくる。
    [02:46.54]しかし、そんな感情もすぐに消え、元の呆然とした自分に戻る。
    [02:55.37]ふと考える、むしろ終身刑か、死刑にでもなった方がマシだったのではないか。
    [03:05.80]どうせ俺なんか、諦めの気持ちの方が強かった。
    [03:15.31]そうやって、ずっと生きてきたから。
    [03:19.97]ふと、ボロ机の上に束になって重ねてある手紙を見る。
    [03:27.82]兄からの手紙だ。
    [03:30.83]手紙は一週間に一度の割合で、頻繁に送られてきた。
    [03:38.26]面会を拒絶したせいだろう。
    [03:41.64]僕は、兄にあうつもりがない。
    [03:46.71]だから、僕たち兄弟の繋がりは、その手紙だけに託されていたとも言える。
    [03:54.62]最初の頃は、中身を読んでいたが、そのうち、封を切ることも面倒くさくなって、ほうったままにしていた。
    [04:06.76]「元気にしてるか。」
    [04:11.92]「出所まで頑張るよ!」
    [04:14.02]「体を大切にな!」
    [04:17.06]いつも同じことばかり書かれていて、しまいには、読む気さえなくなった。
    [04:24.90]それに、この半年、兄からの手紙は、ぷっつりと止んている。
    [04:32.37]返事を一度も出していないせいかもしれない。
    [04:37.80]どうせ向こうも、厭きれていることだろうと思い、気にも留めなかった。
    [04:44.14]収監されて、そろそろ3年になる。
    [04:50.52]出所の日が近づいていた。
    [04:53.93]どうせ世間に戻っても、ろくなことはないから、別段その日を心待ちにしているわけではない。
    [05:05.49]ただ、間違いになく迎えに来るであろう兄だけには、会いたくなかった。
    [05:13.82]こんな惨めな姿を、見られたくない。。
    [05:19.19]それが、最後に残された、僕のプライドだったからだ。
    [05:26.36]