[00:02.056]これはあるかもしれないイフの話だ [00:07.305]仕事から帰り、自宅の玄関扉を開くと [00:11.321]割烹着姿の女性が俺を出迎えた [00:15.332]ムラマサ:「お帰りなさい、正宗君」 [00:17.731]正宗:「あっ、ただいま、花ちゃん」 [00:20.632]ムラマサ:「うん、(>ω<)」 [00:23.061]正宗:「おい」 [00:24.564]ムラマサ:「だって、寂しがったんだもん」 [00:28.024]正宗:「な、何であれ? [00:30.690]あの千寿ムラマサ先輩が」 [00:32.753]ムラマサ:「正宗君、明日はずっと一緒にいられるのだろう」 [00:37.551]正宗:「ああ、ずっと家にいるよ」 [00:39.748]ムラマサ:「そうか。えへへ、よかった」 [00:43.853]千寿ムラマサ、本名梅園花 [00:48.371]彼女は家だと非常に甘えん坊になってしまうのだ [00:54.927]初めて会ったころ俺は彼女のことを [00:58.030]ここの狼のようだと思っていた [01:01.454]ムラマサ:「正宗君正宗君、私な、今日はとても面白いシーンが書けたのだ [01:06.741]ぜひとも呼んで感想を聞かせてほしい」 [01:09.955]完全に子犬、マメシバの類 [01:13.588]正宗:「わかった、すぐ読む [01:15.613]俺も今日打ち合わせて、新刊の内容を決めたんだ [01:18.945]聞いてくれるか」 [01:20.401]ムラマサ:「もちろんだ [01:22.271]いや、待て [01:23.648]先に内容を聞くのはよくない [01:26.658]早く書き上げて、読ませてくる」 [01:29.702]正宗:「そういうところ [01:31.094]本当に出会ったころから変わらないな」 [01:33.367]ムラマサ:「当然だろう [01:35.196]私は最初からずっと君の大ファンなのだから」 [01:39.416]正宗:「俺も [01:40.735]初めて読んだ時から千寿ムラマサの大ファンだよ」 [01:45.844]大ファンで、ライバルで、宿敵だった [01:49.941]ペンネームも、作風も特技さえも俺と似ている [01:54.292]和泉正宗の上位交換、千寿ムラマサという作家に [01:59.015]何度も何度も企画をつぶされて、収入源を閉ざされて [02:04.253]あいつさえなければだと恨んだこともある [02:07.478]そもそも、男だとばかり思っていたし [02:11.591]そんな宿敵とこんな関係になるなんてな [02:20.365]ムラマサ:「あっ、あのう」 [02:23.362]正宗:「(/ω\)あっ、ごめん」 [02:27.961]ムラマサ:「すまない、つい話し込んでしまったな [02:31.736]続きは食事をしてからだ [02:34.021]今夜の献立は肉じゃがと魚の煮物だ [02:37.520]君好きだろう」 [02:39.368]正宗:「ああ、腹ごしらえをしたら小説書こう」 [02:42.804]ムラマサ:「うん」 [02:45.813]場面変わって同日の夜 [02:48.902]俺たちは同じ仕事場で執筆に励んでいた [02:59.547]甘えん坊な婚約者もこの時ばかりは話しかけてこない [03:04.637]お互い自分の文章にのみ向き合い [03:08.068]しかし、体の一部が振り合うような近さで [03:11.852]机を並べて小説を書き続ける [03:15.679]だんだんと、だんだんと [03:19.080]しゅくしゅくと、しゅくしゅくと [03:22.927]ただひたすらにいい物語を [03:27.048]愛する人にとっての世界で一番面白い小説を書き続ける [03:36.539]もともと小説を書くのは好きだったけれど [03:39.502]毎日毎日好きな人に君の小説を読ませるとせがまれて [03:44.951]はるか隔遠の実力者から「ああ、面白かった」と笑いかけられて [03:51.060]そんな日々を続けていたら [03:53.233]そりゃ上達もする、やる気だって出る [03:57.063]最高の修行環境だ [04:00.081]実際、和泉正宗の実力は数年前と比較して格段に上がっているだろう [04:08.069]千寿ムラマサと比肩するほどに、山田エルフを抜き去るほどに [04:14.128]奇跡だと思っている [04:16.435]きっと、ほかのどんな未来を見渡してみても [04:20.130]こんな世界はありはしない [04:22.993]小説づけ、仕事づけの毎日 [04:27.078]規則正しく、十一時には床につく [04:32.168]ムラマサ:「正宗君、起きているか」 [04:35.236]正宗:「先輩っ」 [04:38.295]ムラマサ:「先輩はもうよせと言ったろう」 [04:44.269]正宗:「おい、何をやって」 [04:45.966]ムラマサ:「今日は私もこっちで寝るからな」 [04:48.996]正宗:「ええ、この家には、紗霧だっているのに」 [04:54.057]ムラマサ:「そんなに驚くことはなかろう [04:56.651]たまにはいいじゃないか [04:58.871]って、き、き、君、変なこと考えたろう」 [05:03.533]正宗:「考えてない、考えてない、変なことってなんだよ」 [05:06.955]ムラマサ:「それは、その......だな [05:10.784]とにかく、今日はここで寝る [05:14.057]寝るっだら寝るの、いいな [05:18.352]まったく、君のすけべいはちっとも治らないな」 [05:22.618]正宗:「そっちこそ、すけべだと思うけどな」 [05:25.289]ムラマサ:「やっ、わ、わ、私のどこがすけべだと」 [05:30.094]正宗:「見た目って言ったら怒るよな [05:34.229]な、エロマンガ先生やエルフみたいに大分なエロさとはまた違う [05:39.464]俺の婚約者様は率直に言って」 [05:42.662]ムラマサ:「率直に言って?」 [05:45.597]正宗:「むっつりすけべだ」 [05:46.722]ムラマサ:「(ノ`Д)ノ」 [05:47.618]正宗:「いたっ、何だよ」 [05:49.710]ムラマサ:「知らん、バカ者」 [05:52.737]寝返りを打って、俺に背を向けてしまう [05:57.063]ごまかしやがって、絶対むっつりなんだよな、この人は [06:03.367]そのまま眠る流れになるのかと思いきや [06:07.141]正宗:「えっ、ちょ、ちょ、何こっちの布団に入ってきてんの」 [06:12.860]ムラマサ:「こっ、今夜は添い寝をしながらお話をするからな」 [06:17.750]正宗:「お話って、今日は本当にどうしたんだよ」 [06:22.445]ムラマサ:「いいか、 [06:24.576]大事なことを改めて伝えておくぞ [06:28.053]私はむっつりすけべなどではない [06:32.213]私がこうやって君に迫るのは [06:36.508]君のことを愛しているからだ」 [06:40.740]正宗:「う、うん」 [06:43.235]ムラマサ:「(>人<;)、愛する人に寄り添いたいというこの衝動 [06:47.353]そんな俗な言葉で括ってほしくはないな、後輩」 [06:52.344]正宗:「悪かったよ、先輩」 [06:55.708]ムラマサ:「分かればよい [06:58.152]というわけで、添い寝しながらお話するぞ、正宗君」 [07:03.682]正宗:「うん、何の話をしようか」 [07:06.511]ムラマサ:「そうだな、私がどれほど君を愛しているか、というのはどうだろう」 [07:16.675]俺たちの新婚生活はこんな感じ [07:20.580]忙しくも充実した日々を過ごしている