或る殉教者の物語 彼らに心がなかった 命はあれど、心がなかった しかし、それを幸か不幸かと問うのは、ナンセンスだ そこには確かに強い理念があった 同じ価値観で統一された世界では、争いは起きないだろう それは彼の強い願いだった 彼は問う、文明は何故に短命か 彼は云う、個性こそが罪であり、罰なのだ “人の善悪は所詮、人が決めるものだ それならば人は誰もが皆、神ではないか” そこには確かに強い願いがあった 願いは人の意思であるがゆえに、彼らはそれを持たなかった 彼らはアンドロイドなのだから 人は問う、争いは何故に起こり得る 彼は云う、個性こそが数多の悲劇を生む 彼は問う、文明は何故に短命か 彼は云う、個性こそが罪であり、罰なのだ その墓標には言葉が刻まれていた 「人は個性によって滅ぼされる」