[01:22.34]食べていくための仕事にひと休みして  [01:26.40]私はTVをつけた [01:34.78]眠らぬ旅のあれこれを  [01:37.47]生まれた街で癒そうと試みていた [01:47.70]明日にはこの街にも [01:51.49]雪がちらつくだろうと  [01:54.82]季節はずれの天気予報が流れていた [02:01.60]明けきった5時半の空に目を細めて  [02:08.05]チャンネルを変えた [02:14.29]中継という文字そして [02:17.03]私の瞳に爆風が噴きつけて来た [02:27.06]長い間に見慣れてしまっていた [02:31.19]白く平たい石造りの建物から [02:40.13]朱色の炎と石くれが [02:43.28]噴きあがる瞬間だった [02:46.76]ゆらゆらと熱のかげろうはあがり [02:50.26]やがて白い煙から土色の煙となって [02:56.30]建物から噴き出していた [03:00.19]昨日までと今日は違うものなのだと [03:13.02]人はふいに思い知らされるのだね [03:25.32]蟻のように黒い人影が走り込む  [03:29.85]身を潜める 這い進む 撃ち放つ [03:39.44]どうせTVの中のことだと [03:41.50]考えることもできず 考えないわけにもいかず [03:51.63]ただ私は誰が何を伝えようとしているのか [03:58.04]それだけに耳を傾けた  [04:01.22]それだけに耳を傾けた [04:04.76]大きな救急車が扉を広く開けて [04:09.10]待ち構え続けている [04:17.25]担架に乗り 肩にかつがれ  [04:20.48]白い姿の人々が運び出される [04:30.15]日本人が救けられましたと  [04:34.25]興奮したリポート [04:37.13]ディレクターの声もエンジニアの声も [04:41.15]いり混じっている [04:43.74]人質が手を振っています [04:46.59]元気そうです笑顔ですと [04:49.90]リポートは続けられている [04:56.33]その時ひとかたまりの黒い姿の人々が [05:01.30]担架を囲んでとび出して来る [05:09.22]リポーターは日本人が手を振っていますと [05:14.11]だけ嬉々として語り続ける [05:22.19]担架の上には黒く煤けた兵士 [05:28.70]腕は担架からぶら下がり  [05:31.78]足首がグラグラと揺れる [05:35.55]兵士の胸元に赤いしみが広がる [05:48.10]兵士の肩に彼の銃が  [05:51.47]ためらいがちに仲間によって載せられる [06:01.36]担架はそれきり全速力で [06:04.74]いずこかへと運び出されてゆ [06:14.24]日本人が元気に手を振っていますとリ [06:20.89]ポーターは興奮して伝え続ける [06:27.52]黒い蟻のようなあの [06:30.28]1人の兵士のことはひと言も触れない  [06:34.07]ひと言も触れない [06:40.96]日本人の家族たちを [06:43.26]喜ばせるためのリポートは [06:46.69]切れることなく続く [06:53.27]しかしあの兵士にも父も母も妻も子もあるのではなかったろうか [07:05.91]蟻のように真っ黒に煤けた彼にも 真っ黒に煤けた彼にも [07:44.80]あの国の人たちの正しさを  [07:51.53]ここにいる私は測り知れない [07:57.66]あの国の戦いの正しさを  [08:04.11]ここにいる私は測り知れない [08:10.60]しかし見知らぬ日本人の無事を喜ぶ心がある人たちが何故 [08:24.54]救け出してくれた見知らぬ人には [08:27.54]心を払うことがないのだろう [08:36.49]この国は危ない [08:39.52]何度でも同じあやまちを繰り返すだろう  [08:45.67]平和を望むと言いながらも [08:49.71]日本と名の付いていないものにならば いくらだって冷たくなれるのだろう [09:03.02]慌てた時に人は正体を顕わすね [09:16.01]あの国の中で事件は終わり [09:22.69]私の中ではこの国への怖れが  [09:29.04]黒い炎を噴きあげはじめた [09:42.73]4.2.3.……  4.2.3.…… [09:55.00]日本人の人質は全員が無事 [10:08.19]4.2.3.……  4.2.3.……