[00:02.105]高砂智恵は俺の同級生で [00:05.185]駅前にある本屋「高砂書店」の看板娘 [00:09.479]マンガとライトノベルを愛する女子高生だ [00:12.901]一見のんびりとした優等生、と言った外見なのだが [00:17.263]実のところはそうでもない [00:19.915]そうだな、例えばこの前こんなことがあった [00:24.222]六月中旬、クラスでの話題に [00:27.431]夏休みという単語が混じり始めたある日の放課後 [00:33.109]智恵:「ムネ君、ちょっといいかな」 [00:36.490]正宗:「何だ」 [00:37.749]智恵:「僕に勉強を教えてほしいんだ」 [00:40.445]正宗:「ああ、ごめん。今新作の執筆で忙し……」 [00:44.392]智恵:「無理を承知の上でお願いしたく [00:46.680]どうか学年中五位の和泉正宗様 [00:49.719]追試をクリアしないと、補習で夏休みが」 [00:53.312]正宗:「そういう理由ね。事情は分かったけど」 [00:57.968]智恵:「無論、ただとは言いませぬ [01:00.357]報酬として、今月の電撃大王を用意いたしております」 [01:04.692](おお、智恵にしと奮発したな) [01:08.255]普段のこいつは友達に本をあげたりしない [01:12.128]自分ちで買い物をしてもらわなくちゃいけないからね [01:15.540]そのポリシーを曲げてまでのお願いということらしかった [01:20.664]正宗:「でも、俺が一番読みたいマンガ休載してそうだしな」 [01:24.930]智恵:「おっしゃる通り休載中だけども [01:27.589]ほかにも面白いマンガがいっぱい載ってるから [01:30.694]最近連載が始まったばかりの作品もあるし [01:34.251]新規で購読を始めるにはうってつけのほうだから [01:38.263]あっ、面白かったら来月からは自分で買ってよね」 [01:42.066]正宗:「それってもう、報酬というより、販促じゃないの」 [01:47.387]智恵:「これで足りないというのなら、もう僕の体で払うしか」 [01:52.642]正宗:「教室で何言ってんの」 [01:54.870](女子グループからすけい目で見られてるんだけど) [01:58.122]智恵:「だ、だってムネ君はエロマンガ先生に [02:01.239]パンツを見せてくれる美少女を探してるんでしょう [02:04.116]そこで僕がエロマンガ先生の犠牲になってあげる代わりに [02:07.652]勉強をだね」 [02:09.178]正宗:「その件はもう解決したからいいよ」 [02:11.887](解決したというかつかまってみたというか [02:15.173]説明する気にもならないんだけども [02:17.722]ともかく、それは別の話だ) [02:20.866]正宗:「それと、俺の相棒であるイラストレートの名前を [02:24.070]教室で口に出すのはやめようか」 [02:26.274]智恵:「なんで」 [02:27.371]正宗:「俺が智恵に勉強を教えてあげるかわりに [02:29.966]エッチな要求をしているって誤解されるからだ」 [02:33.084]智恵:「ああっ、場所変えよっか」 [02:38.217]正宗:「図書室行こうぜ、追試の対策だけパッと教えるからさ」 [02:42.228]智恵:「おお、商談成立ということかな」 [02:45.332]正宗:「いや、ただでいいよ、いつも面白い本を教えてもらってるし [02:49.470]そのお返しってことで」 [02:51.329]智恵:「本当に、わぁすっごく助かる」 [02:54.022]正宗:「恩に来てくれるんなら、俺の新刊が出た時 [02:57.195]おすすめ棚に並べてくれよ」 [02:59.196]智恵:「いいよ、ただし、僕が読んで面白かったらね」 [03:03.401]正宗:「そこは譲れないんだな」 [03:07.038]図書室に移動した俺たちは長机を挟んで [03:10.740]向かい合うように座った [03:13.182]机の上にはノートが広げられている [03:16.421]しばらく追試範囲の内容を教えていると [03:19.504]智恵がノートから顔を上げていた [03:22.280]智恵:「いやぁムネ君、改めてありがとうね [03:25.510]優しい友達がいた幸運に感謝だ」 [03:28.708]正宗:「お礼は追試結果で返してくれ」 [03:31.224]智恵:「そのつもりだよ [03:33.028]にしても、試験結果の順位表を見てびっくりした [03:36.855]君ってあんなに成績よかったんだね [03:40.011]お仕事だって忙しいんだろうに、勉強する時間とかあるの」 [03:44.562]正宗:「毎回必死だよ [03:46.538]まあちょっとした事情があってさ、成績落とせないんだ [03:51.416]お前こそ、見た目優等生っぼいのに」 [03:54.600](意外とアホなんだな) [03:56.554]智恵:「うん?何かな、最後まで言ってごらん」 [04:00.265]正宗:「い、い、いやまあ、智恵にだってすごいところはあるよ」 [04:04.430]智恵:「おお、例えば」 [04:07.144](えっと、智恵のすごいところ、すごいところ) [04:13.969]正宗:「面白い本とか、ゲームとかアニメとか、たくさん知ってるし [04:17.641]本屋の陣列テクニックとか、次に入る本の分析とか [04:21.164]そういうのって、普通の女子高生には出来ないコツだと思うぜ」 [04:25.327]智恵:「ふん、学校では評価されない項目ですからね」 [04:29.821]正宗:「普通科高校の劣等生なんだな」 [04:32.493]智恵:「それってただのバカってことだよね」 [04:34.749]正宗:「図書室で大声出すなよ」 [04:36.351]智恵:「ああ、いけないいけない」 [04:39.253]正宗:「さ、気を取り直して、勉強の続きをしようぜ」 [04:47.196]智恵:「そういえばさ、ムネ君」 [04:49.380]正宗:「鉛筆の動きが止まってるぞ」 [04:51.471]智恵:「ちょっとだけ休憩しよう、ちょっとだけ」 [04:54.080]正宗:「少しだけな、ってなんだよ」 [04:57.820]智恵:「ラノベ作家って、儲かるの」 [05:02.311](いるよな、こういううさい質問をしてくる友達) [05:06.988]智恵:「いやだって、やっぱ気になるじゃんか [05:09.697]ほら、一オタク一ラノベファンとしてね [05:13.569]って、どうなのさ」 [05:17.152]正宗:「人それぞれじゃないか [05:19.414]それこそ例の山田エルフ先生とこなら [05:22.323]家を買えるくらい稼いでいるだろうし」 [05:25.032]智恵:「和泉マサムネ先生は大したことないの」 [05:28.276](失礼すぎだろう、こいつ) [05:30.941]正宗:「ええと、どうかな、 [05:33.158]全然本が出せなくて [05:34.900]おととしみたいに年収がほぼゼロになっちゃうときもあれば [05:38.290]日本人の平均年収以上に稼げた年もあるよ [05:42.876]まあ、やっぱいろいろとしか言えないかな」 [05:45.955]智恵:「うんん、よくネットとかでラノベ作家は稼げないから [05:51.172]編集者さんから絶対仕事をやめるなって言われる [05:54.931]なんて話を聞くけど」 [05:56.512]正宗:「それは嘘だな、そうすは俺 [05:59.926]『新作の売れ行きがいいから学校をやめてください』って言われた事がある」 [06:04.114]智恵:「ネットゲーの廃人ギルドみたいだね」 [06:06.573]正宗:「まあもちろんやめなかったからこそ [06:08.786]今こうしてるんだけどさ [06:11.073]あと、一応フォローしておくと、 [06:13.718]作家の将来を築かってくれる心優しい編集者さんも [06:18.150]もしかしたらコネ運どっかにはいるかもしれない 」 [06:21.779]智恵:「明らかに『いるわけねぇ』というニュアンスが感じられるんですけど」 [06:26.022]正宗:「気のせいだ。んて、智恵、この話に落ちはあんの」 [06:31.856]智恵:「えっとね、あるっじゃあるかな」 [06:35.612]正宗:「あるのかよ」意外だ [06:38.327]智恵:「うんっとね、もしもムネ君が [06:41.964]アニメ化するくらいの大ヒット作品を生み出して [06:45.460]山田エルフ先生くらいに大儲けしたらさ」 [06:49.094]正宗:「大儲けしたら?」 [06:51.073]智恵:「僕が、ムネ君のお嫁さんになってあげてもいいよ」 [06:56.109]正宗:「金目当てを隠そうともしてねぇ!」 [06:58.608](ふざけんな!せめてもうちょっとカムフラージュしろよ) [07:02.756]智恵:「まあ、考えておいてよ」 [07:06.278]正宗:「却下、俺好きな人いるし」 [07:11.461]智恵:「ええ、えーーー [07:13.995]だれ、だれ?同じクラス?」 [07:16.504] [07:17.927]智恵:「ええ、教えろよ、僕とムネ君の仲だろう」 [07:21.463]正宗:「俺とお前の仲ってなんだよ [07:23.637]金目当てでプロポーズをする程度の仲なんだろう」 [07:26.299]智恵:「いやいや、愛はともかく [07:28.111]僕たちの間には無償の友情があったはずだぜ」 [07:33.881]正宗:「えっ?」 [07:35.196]智恵:「何さムネ君、その何か言い出そうな顔は」 [07:39.134]正宗:「俺ってなんでお前と友達になったんだっけ」 [07:42.393]智恵:「ちょっ、ひどい、忘れちゃったの、ちゃんと思い出してよ [07:47.105]君の大切な記念日だったはずだろう」 [07:51.622]正宗:「智恵と仲良くなった記念日ってこと?」 [07:54.794]智恵:「それもあるけど、ほら [07:57.427]三年前、僕らがまだ幼気な中学生だった頃」 [08:02.055]そう、あれは [08:05.972]正宗:「ああ、緊張する」 [08:09.313]朝の十時、俺は高砂書店のライトノベルコーナーにいた [08:14.248]その日は、和泉マサムネのデビュー作は、初めて書店に並ぶ日だったのだ [08:20.198]正宗:「ああ、本当に売ってるよ、俺の [08:27.099]イラストレーター『エロマンガ』って書いてあるけど」 [08:30.616](なんでこの人こんないかがわしいペンネームをつけたかったんだよ) [08:35.423]正宗:「いたたっ、胃が痛い」 [08:38.899](俺、作家デューしたんだな [08:42.179]俺の本買ってくれる人がいるんだろうか) [08:46.125]ワクワクと心劣る気持ちと、不安でたまらない気持ちが [08:50.518]胸の中で渦巻いている [08:53.778]もちろん、作者が本屋にきたところで [08:56.849]本の売り上げを左右できるわけでもない [08:59.916]そんなことは分かってる [09:02.001]分かっちゃいるんだが、どうしてもこのまま家に帰る気にはなれなくて [09:08.180]どうしたかっていうとだな [09:14.693]本棚の陰に隠れて、本の売れ行きを監視する体勢に入った [09:25.384]血走った目で、ライトノベルコーナーを凝視する [09:29.182]たぶん漫画家とか、小説家とか、みんな似たようなことをやってると思う [09:35.491]新刊の発売日だからか [09:37.320]開店直後だというのに、お客さんはそこそこいる [09:41.851]しばし新刊棚に熱視線を送り続けていると [09:45.444]正宗:「おっ、ついに俺のデビュー作を手に取った人がいた [09:50.029]高校生くらいに男子だ [09:51.868]彼は手に取った本の表紙をじっと見て [09:55.172]裏返したり、背表紙を見たり、買おうかどうか迷っている様子」 [10:00.188](よし、買え!買うんだ!お願いします、きっと面白いから) [10:05.799]男1:「なんだよ、この『エロマンガ』って [10:08.117]恥ずかしくて買えねぇよ」 [10:11.454]正宗:「ちくしょう、エロ漫画じゃないのに [10:16.007]エッチな内容じゃ全然ないのに」 [10:23.319]さらに見守ること数分、再び俺のデビュー作を手に取る人がいた [10:29.187]正宗:「よーし、今度こそ買ってください [10:31.577]『エロマンガ』って書いてあるけど、エロくないから [10:34.323]さ、勇気を出して」 [10:37.097]男2:「新人作家か、人は知らまじだな」 [10:41.918]正宗:「けっ、えらそうに、何様だてめぇ」 [10:46.368](モンスターペアレンツと呼ばれる親たちの気持ちが [10:49.611]今の俺にはよくわかる) [10:55.426]さらに数分見守るも、一向に俺の本を買ってくれる人は現れない [11:02.204](や、やばい、このまま一冊も売れなかったらどうしよう [11:06.333]デビュー早々、一巻打ち切りになっちゃったらどうしよう) [11:10.482]そんな情けなくも、切実な思いから、つい魔が差してしまったのだ [11:15.834]俺はフラフラとライトノベルコーナーに近づいていて [11:21.155]正宗:「なんか超面白そうなラノベが売ってるぞ [11:24.535]イラストもかわいいし、『和泉マサムネ』ってペンネームも格好いいし [11:29.620]あらすじも楽しそうだし、こりゃ大ヒット間違いなしですわ」 [11:34.925](じろっ) [11:36.696]正宗:「表紙に『エロマンガ』って書いてあるけど [11:39.129]イラストレーターさんの名前で内容には関係ないし [11:42.097]エッチな小説じゃちっともないし [11:44.548]勇気を出して買っちゃおうかな」 [11:47.462](じろっ、じろっ [11:49.347]さ、皆の物買え、買うのだ) [11:52.714]店主:「お客様」 [11:55.110]正宗:「はいっ、ええ!」 [11:57.623]店主:「お話がありますので、こちらに来ていただけますか」 [12:02.820]肩をつかまれ振り向くと、強面マッチョのおっさん [12:07.302]高砂書店の店主が、ド迫力で俺を見下ろしていた [12:13.496]店内で騒いでいた俺は、書店のバックロームで弁解をしていた [12:19.058]正宗:「ですから、俺は作者なんですよ、この本の」 [12:22.480]店主:「こんなに若い作家がいるか [12:24.836]うちの娘と同じぐらいじゃねぇか」 [12:27.553]正宗:「本当ですって、最近中学生デビューとか、珍しくない時代なんですってば [12:34.669]ほら、これ、学生証、『和泉正宗』って書いてあるでしょう [12:38.740]この本の作者とほとんど同じ名前ですよ、これが証拠です」 [12:42.542]店主:「うん、いやしかしな」 [12:45.476]智恵:「ちょっと、お父さん [12:47.560]お店空っぽにして何やっての、万引きか何か」 [12:51.787]店主:「ああ、いや、店で騒いでるやつがいたからよ [12:56.579]ほかのお客様の邪魔になるかもしれねぇから、事情を聞いてたんだが」 [13:02.829]智恵:「ん?ありゃ、和泉君じゃない、一組の」 [13:08.177]正宗:「えっ、君は」 [13:10.615]智恵:「高砂智恵、覚えてないかな、小三の時同じクラスだったんだけど」 [13:16.747]正宗:「あ、ごめん」 [13:18.817]智恵:「そっか、まあいいや」 [13:20.662]店主:「こぞ、こんな美少女を忘れたってんのか」 [13:24.537]正宗:「す、すみません」 [13:26.325]智恵:「ちょっ、お父さん、恥ずかしいこと言わないで [13:30.261]えっと、で、どういうこと」 [13:33.820]店主:「だからな、店で騒いでたこぞは [13:37.746]自分がこの本を書いた作家だとかなんとか [13:41.373]下手な嘘ついてよ」 [13:44.270]智恵:「おっ、それ、今日発売の新刊じゃん [13:48.429]って、えっ、『和泉マサムネ』、和泉正宗 [13:54.798]ん?ん??ま、まさか」 [13:59.428]正宗:「うん、俺がその本の作者、和泉正宗なんだ」 [14:05.725]智恵:「マジで?」 [14:07.046]正宗:「マジで」 [14:07.980]店主:「偶然じゃねぇのか」 [14:10.121]正宗:「本当ですって」 [14:16.020]智恵:「ね、和泉君さ」 [14:18.070]正宗:「な、なんだ」 [14:19.437]智恵:「ブラックロッドとブラッドジャケットとブライトライツ-ホーリーランド [14:23.293]この三作ではどれが一番好き」 [14:26.056]どれも電撃文庫から発売されている超名作小説だ [14:30.856]俺は質問の意図を分かりかねながらも、即答していた [14:35.482]正宗:「ブラッドジャケット」 [14:37.190]智恵:「うんん [14:39.730]ラノベキャラで君が一番格好いいと思う名前は」 [14:43.461] [14:46.293]智恵:「んじゃ、ブギーポップシリーズで一番好きな本は」 [14:50.000]正宗:「高砂さん、この質問に何の意味があるわけ」 [14:53.569]智恵:「ライトノベル性格分析ってとこかな [14:56.511]いいから答えてよ」 [14:58.523]正宗:「VSイマジ [15:00.234]いや、エンブリオ炎生かな」 [15:03.911]智恵:「そっかそっか、なるほどね、いやどうりで [15:09.343]ちなみに僕は、パンドラとペパーミントの魔術師が好きだよ」 [15:13.331]正宗:「俺も、ファントムは超好き」 [15:15.365]智恵:「おお分かってるね [15:17.106]あっ、ところで、うちのお父さんちょっとイナズマに似てない」 [15:20.362]正宗:「えっ、似てないと思うけど」 [15:24.515]店主:「おいおい、何の話だ、さっぱりわからんぞ」 [15:28.572]智恵:「お父さん、和泉君の言ってることたぶん本当 [15:32.766]自分が作者だなんて言って、ごまかそうとしているわけじゃないよ」 [15:36.513]店主:「なんでわかる」 [15:38.213]智恵:「んとね、いまちょっと話してそう思った [15:42.517]ラノベ好きなやつに悪いやつはいないって [15:45.877]それだけじゃ弱いかな」 [15:48.556]店主:「まあな」 [15:49.928]智恵:「えっとじゃ、あんまり大きな声じゃ言えないんだけど [15:54.940]僕、今日発売のラノベ [15:57.089]昨日店に入荷したときに読んじゃったんだよね」 [16:00.869]正宗:「てことは、俺の本も読んでくれたってこと」 [16:03.869]智恵:「えへへ、そういうこと [16:06.995]びっくりしちゃった、 [16:09.976]僕が作品を読んで想像した作者のイメージそのものなんだもん [16:14.348]だから、きっとこの人が和泉マサムネ先生本人なんだろうなって思った [16:20.979]それに、同じクラスで一年間過ごしたこともあるしな [16:25.191]君はそんな嘘をつくようなやつじゃないよ [16:30.362]今日は和泉正宗のデビュー作発売日だし [16:34.166]お店の中で様子がおかしかったのはそのせいじゃないかな」 [16:38.163](見透かされている) [16:42.096]店主:「わかった [16:43.681]おいこぞ、もう店で騒ぐなよ」 [16:47.858]正宗:「はい、すみませんでした」 [16:52.306]智恵:「一件落着だね」 [16:54.942]正宗:「助かったよ」 [16:56.831]威圧感のかたまりがバックルームから去り [16:59.700]俺はようやく一息つく [17:02.382]そこで、高砂さんが上機嫌に近づいてきた [17:06.726]智恵:「で、和泉マサムネ先生、なんか面白そうだし、話聞かせてよ」 [17:13.776]正宗:「ああ、記念日って、俺のデビュー作の発売日か [17:17.940]あれがきっかけでお前と話すようになったんだっけ」 [17:20.672]智恵:「そうそう、なんだよ、ちゃんと覚えてるじゃん [17:24.537]その後ムネ君が、ラノベ作家だってことを学校では隠したいから [17:28.729]秘密にしててって言い出して」 [17:31.125]正宗:「ずっと内緒にしてくれてるよな」 [17:33.299]智恵:「そりゃ約束しましたからね」 [17:35.802]正宗:「すぐばらされるって思ってた」 [17:37.807]智恵:「ちぇ、ひどいな [17:39.839]こう見えてけっこう義理堅いだぜ僕」 [17:42.344]正宗:「知ってる、友達だからな」 [17:45.039]智恵:「そう、ムネ君が学校で唯一ラノベの話ができる友達だ [17:49.994]僕にとってもね」 [17:51.829]俺はともかく、智恵は学校でも友達が多いほうだと思うのだが [17:56.931]やっぱり書店員でラノベ担当をしている彼女と同じレベルで [18:01.179]ラノベトークができる女子はいないらしい [18:04.309]だから、お互いにとっていい出会いだったのだろう [18:08.604]智恵:「ね、ムネ君この後うち寄ってく [18:12.723]ほら、勉強教えてもらった報酬、渡さなくちゃだし [18:17.343]ただでいいとは言ってもらったけれども、受け取ってよ」 [18:20.966]正宗:「そういうことなら、行くよ」 [18:23.515]智恵:「よーし、そうかなくっちゃ [18:25.582]ムネ君におすすめしたい本もあるんだ」 [18:28.349]正宗:「貸してくれんの」 [18:29.429]智恵:「売ってあげるよ」 [18:31.652]正宗:「しっかりしてんな [18:33.723]わかった、買うよ」 [18:35.635]智恵:「毎度あり、きっと気に入ってくれると思うよ [18:39.611]読んだら感想聞かせてよね」 [18:43.224]高砂智恵、俺の親友は、こんなやつだ