[00:00.50] [00:26.90]僕が引っ越してきたのは偽物の街だった [00:29.12]偽物の駅に、偽物のコンビニ [00:31.91]偽物のスーパーに立ち寄り偽物の卵を買い込み [00:34.54]家に帰る途中のある店の扉を叩くのだ [00:36.88]偽物の看板、偽物のバーで [00:39.73]熱心にダーツを放つ男たちを尻目に [00:42.40]僕は気取ってこう言い放つのだった [00:44.88]「マスター、いつもの偽物をください」 [00:48.09]そう言うとマスターは何も言わず微笑み [00:50.55]すべてをわかったかのようにシェイカーを手にする [00:53.24]偽物のグラスに偽物のリキュール [00:56.03]偽物の氷を浮かべるとさらに [00:58.71]さらさらと何か粉のようなものをふりかけ [01:01.95]そこでマスターが一言 [01:03.98]「アゲハ蝶の鱗粉です、もちろん本物の偽物ですよ」ってね [01:10.04] [01:35.61]いつからか僕はこの世界にいるのか? [01:38.29]少し前はずっと同じ場所にいたはずなのに [01:40.91]いつからか僕はこの世界にいるのだ? [01:43.79]少し前はずっとマシな場所にいたはずなのに [01:46.27]本当にこれが僕の望んでいたことなのか? [01:49.10]本当にこれが自分で選んだ道だと言うのか? [01:51.56]ボタンひとつで元に戻せるんじゃあないのか? [01:54.28]え?そこのお前なんとか言ったらどうなんだ [01:56.94]そんな彼を嘲笑うかのように一匹の蝶々が [01:59.59]ゆらゆらとはためいて帰り道を横切る [02:02.27]アゲハだ 確かこいつはどこかで見た覚えが [02:04.78]だが彼は十分に酔っていて何も思い出せない [02:07.57]暗い闇に羽ばたく黒い羽の鱗粉が青白く輝く [02:11.99]見惚れてはいけない [02:13.21]蝶々はいざなう [02:14.70]「Shall we dance?」と耳元で囁く [02:17.32]踊ってはいけない [02:19.10] [02:39.68]気が付くと僕は君の空洞の中にいた [02:42.31]ただの空洞じゃない 君の空洞の中だ [02:44.99]僕はもはや何もかもを思い出してしまった [02:47.84]この空洞は僕が空けたものだ [02:50.82]そこにはテレビが一つ置いてあった [02:53.09]外では雨が降っているようだった [02:55.93]僕はそのテレビの前に一人立ち尽くしていたんだ [02:58.53]目を逸らそうとしたがそれはできなかった [03:01.20]その画面には君と僕の思い出が映し出されていた [03:03.77]何度も何度も手をつないで二人で帰るシーンばかりが繰り返されていた [03:09.17]外では雨が降っているようだった [03:11.77]こんなにも胸が苦しいということは [03:14.44]あなたを確かに愛していた証拠だ [03:17.47]こんなにも胸が苦しいのだから [03:19.92]あなたを確かに愛していたのだ [03:22.91] [03:43.82]いつからか僕はこの世界にいるのか? [03:46.47]少し前はずっとマシな場所にいたはずなのに [03:49.09]いつからか僕はこの世界にいるのだ? [03:51.93]少し前はずっとマシな場所にいたはずなのに [03:54.45]本当にこれが僕の望んでいたことなのか? [03:57.05]本当にこれが自分で選んだ道だと言うのか? [03:59.78]ボタンひとつで元に戻せるんじゃあないのか? [04:02.56]え?そこのお前なんとか言ったらどうなんだ [04:05.65] [04:50.83]帰り道はいくつかの私道によって作られていた [04:53.54]もう二度と同じ風景など見たくない [04:55.70]そう言って彼はまだ音の鳴る踏切をくぐったのだった [05:04.92]